多数決は本当に正しいのか

多数決が正しいことだと、我々は思いがちです。でも本当に多数決がみんなの意見を反映していると言えるのでしょうか。
多数決による意志決定のあり方に疑問を突きつける慶應義塾大教授の坂井豊貴さん(社会的選択理論)に「自分たち」で決める方法について聞きました。

Q.多数決はなぜ日本人に親しまれているのですか。

たくさんの人の意志決定において、我々は幼い頃から多数決以外の決め方を教えてもらっていませんね。
だからこそ、疑いを持たないのです。
多数決以外の決め方を知っていたら、比較して長所や短所を理解しようとします。
どんな決め方が他にあるのか学ばないといけません。
例えば、アメリカのリンカーン大統領は当時の感覚では大変ドラスティックな候補で、選挙では辛勝しました。
もし、選挙のやり方が違ったら落選したはずです。決め方次第で結果が変わるということを認識しましょう。

Q.多数決にはどんな欠点があるんでしょうか。

大前提として多数決はただ多数派の判断であり、必ずしも正しさを担保するものではありません。
例えば多数決で「カラスは白色」と決まっても、カラスはもちろん黒色です。
道徳的にも、科学的にも正しいことを選ぶとは限らない。それに投票で決めてはいけないことだってある。
民主的であることと暴力的であることはいくらでも両立します。
例えば誰かをいじめていいかどうかを決めようと思えば決められる。でも、それは人権侵害です。
多数決には防波堤が必要です。日本の法律でいうと、憲法がその役割を果たしています。
憲法に違反する法律を作ってはいけません。
集団の意志決定においては、本来なら全員の思いが一致する方がいい。
しかし、なかなかそうはいきません。多数決は仕方なくやることです。
全員の意見を尊重できないから、多数の人を尊重しようとするわけです。
そもそも多数決は「どれを一番好むか」という極端な意思表示です。
赤、白、青の三つの選択肢があったとして、多数決で選べるのは一つだけです。
悪目立ちしたものが選ばれることもある。2位と3位については意見を表明できない。
ある人が「赤が一番いいと思うけど、2番目には白が好き」と思っても1位以外は最下位と同じ扱いにされてしまう。
どれが1位かというのは好みの一部しか表していません。それに票の割れの影響を受けやすい。
実際の選挙でも野党が乱立すると、共倒れになります。

Q.2位、3位についての思いを汲み取るにはどうしたらいいのでしょうか。

例えば1位に3点、2位に2点、3位に1点を配点するような「ボルダルール」があります。
これは2位以下についての意見も聞きます。
一部だけではなく、万人にそれなりに好意的に受け止められているものが選ばれます。
他にも決選投票付き多数決という制度がありますね。上位の二つについて再度投票を行うものです。
結果は決め方によって変わってしまいます。
僕はボルダルールが票の割れの影響を抑えられ、優れていると考えています。

 

※ボルダルール:1位3点、2位2点、3位1点

9人がA~C三つの選択肢の中から一つを選ぼうとしています。
まず1位だけを見る多数決ではAが選ばれます。
ただしAの票は過半数に達していません。
BとCで票が割れたから、Aが勝ちました。
そこで上位二つのAとBで決選投票を行ってみます。
それまでCを支持していた2人は、BをAより支持するので、Bに投票します。
つまり決選投票では、Aは4票のままですが、
Bは元々Cに投票していた人からも支持を受けるので5票が入ります。
決選投票付き多数決で勝つのはBです。
今度は「1位に3点、2位に2点、3位に1点」とするボルダルールを考えてみましょう。総得点を計算すると、Cが20点で最高得点になります。
全員がCを2位以上に評価しているのが効きました。
ボルダルールではCが勝つというわけです。

Q.マイノリティーの意見はどうやったら反映できるんでしょうか。

日本は「選挙の結果が全て」と思うところがありますね。
「選挙結果は民意の反映」と言いますが、そうとも言い切れません。
政治家を選ぶことと政策を支持することは別ものです。
政策はマニフェストとして抱き合わせで発表されますから、一つ一つの政策についての評価はできませんから。
だからこそ、個人が意思表示する機会を保護しないといけない。
意見が異なったとしてもリスペクトしないといけません。
最近の日本では冷ややかな視線が送られがちですが、デモや運動を尊重するのは大切なことです。

坂井 豊貴

慶應義塾大学教授

さかい・とよたか/慶應義塾大学経済学部教授
米国ロチェスター大学Ph.D.(Economics)。ゲーム理論を用いた制度設計(メカニズムデザイン)を専攻。株式会社デューデリ&ディールではチーフエコノミストとして、株式会社Gaudiyでは経済設計顧問として、学知の実用に携わる。著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『暗号通貨vs.国家』(SB新書)ほか。