お金と短歌
石川美南『体内飛行』
かばんの中に入れた本やノートから、思いがけないものが出てくることがありますよね。
この歌もそんな瞬間を凝縮しています。
作者は妊婦健診を受けている女性でしょうか。
検診を担当する助産師さんに渡した母子手帳に、なぜか百円玉が挟まっていたのでしょう。
ささやかだけれど、得した気分。
百円玉がキラキラして生まれてくる命を祝福しているようにも映ります。
山田 航 『さよならバグ・チルドレン』
主人公はコンビニでアルバイトをしている人でしょうか。
飲み物が入ったペットボトルを棚に詰め込んでいる様子が浮かびます。
現在、日本の労働人口の4割が非正規雇用です。
年収が毎年上がる正社員が当たり前だった「親」の世代とは、
収入の状況が違う若い世代も少なくありません。
初句の「たぶん」に諦めとかすかな希望がにじみます。
千種創一 『砂丘律』
恋も年金も、その人の人生を左右する大事なことです。
人によっては「仕事だとか」や「人生だとか」が続くかもしれません。
大事なことを考えるのは疲れます。恋も年金も複雑です。
先行きは不透明です。確かなのは目の前にある葡萄の味と食感。
舌だけに感覚を集中させて、やり過ごしたい時もあります。ありますよね。
笹井宏之 『てんとろり』
財務省は国民から税金を集めて、その使い道を計画します。
無駄なく必要なところにお金が流れるための仕事をしています。
そのトップである財務大臣たちが星を手にして走り回るとは、どういうことでしょうか。
星とはお金の比喩表現なのでしょうか。
それとも、もっとステキなものなのでしょうか。
きらきらと光るものを手にした財務大臣を想像すると不思議なおかしみがあります。
工藤玲音 『水中で口笛』
納豆は体にいいとされる食べ物。朝ご飯か、晩ご飯か。
おそらく親が作者に食べてもらおうと食卓に納豆を用意してくれていました。
でも、作者は納豆の気分じゃなかった。冷蔵庫の中にそっと戻すのです。
大抵の納豆は高価ではありませんが、1人暮らしなら食べたくないものをわざわざ買うことはありません。
「実家暮らしは」という結句に親への感謝と甘えが入り混じります。