
富山にこんなお仕事2025
アニメーター
作品の世界にひたってほしい
初めて「絵」を意識した時の明確な記憶がある。園児の頃のことだ。田中さんは、丸い顔から手足が直接生えた、幼児らしい絵を描いている。しかし絵のうまい友達は、頭と体がある「人」を描いていた。衝撃だった。「人間を描けるのかって頭の中で革命が起きました」と振り返る。
程なくして、父が録画した深夜アニメを見るようになった。「夏のあらし!」、「魔法少女まどか☆マギカ」など、夢中になった作品のクレジットには同じ名前があると気づいた。読み方は分からなかったが、「新房昭之」という人だった。監督という肩書きだった。その人ならではの演出に心惹かれた。作り手という存在に意識が向くようになった。
高校卒業後は美術系の大学へ進んだ。授業でアニメ制作も体験。自分の絵が動き出した時のうれしさを今も覚えている。
卒業後の進路に悩んだが、偶然目にしたパンフレットに背中を押され 、アニメ制作会社「P.A.WORKS」独自の養成所に入所。そこで初めて「花咲くいろは」や「Another」など、父と共に見たアニメの数々がこの会社で作られていたことを知った。
現役のクリエーターに学ぶ、1年間の講習を経て「P.A.WORKS」に入社。現在は原画を担当している。「私の線はまだ硬い。でも先輩の線はしなやかで柔らかい」と悔しそうにする。
アニメーターとしての田中さんの理想は、自分という存在を視聴者に認識されないこと。自身は新房監督に憧れたが、「誰が作ったとか忘れてもらって、アニメの世界にどっぷり入り込んでもらいたいんです」。自分の名前よりも、作品を知ってもらいたい。今日も鉛筆を走らせ、頭の中の映像を追いかける。