
アートで生きる②
現代美術家 サエボーグさん
人間中心の価値観を問い直すボディースーツ作品で注目を集める富山県出身の現代美術家、サエボーグ。
着ぐるみへの純粋な欲望だけで作り続け、気がつけば世界で活躍する現代アーティストになっていた。
黒部市美術館での北陸初個展を終えて、アーティストとしての生き方を語った。
いいと思ったものを作り続けろ
アーティストを目指したきっかけを教えてください。
「目指した」というよりは、「なっちゃった」という感じです。美大では絵画専攻でしたが、それとは別に着ぐるみが好きで作っていました。本気の趣味というか、「好き、好き、好き」でやっていて、欲望が止まらなくてもう作りたくて作っている感じでした。そうしているうちに、いつの間にかいろんな話が来るようになりました。最初から職業にしてご飯を食べていこうなんて全然思っていませんでした。
活動を始めた初期の頃、生活費や制作費をどのようにやりくりしていましたか?
普通にいろいろなバイトをしていました。飲み屋でバイトしたり、テレフォンアポインターみたいな営業もやりました。制作費よりも、作っている間の生活費の方が問題でした。作品を作るのに時間がかかるから、バイトをしながら、単発でまとまった休みを取って制作するという感じでした。トータルの労働時間で言えば、普通の人の倍は働いていたかと思います。
アーティストとして転機となった出来事はありましたか?
友達に勧められてコンペに応募したことは大きかったですね。名誉というより、賞金目当てで応募したら運よく賞をもらいました。でも、それは2番目の賞。賞金は目標の200万円ではなく、100万円でした。だから制作費ですぐ消えてプラマイゼロ。ただ受賞をきっかけにオファーが来始めて、それが今につながっています。
現在の収入源は。
アーティストフィーが主な収入源です。展覧会をやることで、美術館などの主催団体からギャラをもらいます。展覧会のギャラは世界的にそこまで高くないのですが、私はそこに加えて着ぐるみを使ったパフォーマンスのフィーも頂いています。それはほんの少し高い。あとはフィギュアという形でエディション付きの作品を作って売ったりもします。ただ、全体の事業規模から見ると私の取り分は米粒レベルです。海外でも仕事をしていますが、円安の影響で見かけ上のギャラは良く見えても、滞在費などを考えると楽ではないです。
創作とお金のバランスについてどう考えていますか。
正直、仕事のご依頼はたくさんいただきます。本当は生活のために全部受けた方がいいってわかっていますが、一つの展覧会やパフォーマンスをやるのはすごく大変なこと。全部やると、全体がおろそかになってしまいます。年収が減ってでも仕事をセーブして、納得できるものを作っていきたい。私の場合は、生活レベルをかなり下げてやっているから成り立っているんです。普通の人並みの生活をしようと思ったら、多分無理です。
アイデアの源泉はどこにありますか?
私はおもちゃが好きなんですよね。特に海外の女児向けのおもちゃとかが好き。でも、それを収集しようとしたら莫大なお金が必要。私みたいな貧乏人はかなわないから、自分だけのオリジナルのおもちゃを作ろうっていう。それが一つのきっかけですね。あとは映画や漫画にも刺激を受けます。でも既に作りたい着ぐるみが山のようにあります。オファーが来た時に「じゃあこのテーマだったら、これとこれかな」っていう感じで作っています。
アーティストを目指す高校生へのアドバイスを。
他人からのアドバイスに影響されちゃうようなら、そもそもアーティストに向いていないかも。我が強くないと無理というか、誰に何を言われようが「やりたいからやる」という愛のようなものがないと難しい。アーティストが本当に作りたかったら、四の五の言う前にもう作っています。売れるかどうかなんて誰にも分かりません。でも、みんなが見たいのは新しいものなんです。だから人の評価とか考えずに、自分がいいと思ったものをやるしかない。やりたい表現をすることと、評価を受けること、稼ぐこと。これらはそれぞれ違う話です。創作のためにたくさん稼ぐ必要はない。後悔のないように地道に作り続けて!