普通を、平凡を恐れずに生きて
普通の高校生のための創作アドバイス
才能が全てじゃない
僕は自分が天才だとは思っていません。だから最初に思い付くことは平凡なことばかり。
僕は短歌を作っていますが、最初に出てくるアイデアはごく普通です。みんな思い付くようなことです。
でも、それを前提として知っておけば、次のレベルに進めます。その平凡なことをどう見せるか。どんな角度で見せるかという作業をすればいい。普通ってそのまま出しちゃうと、創作物としては弱い。だから、そこを出発点に連想して、他の人が考えないような作品を作る。
10代って好きなアーティストや、クラスの人気者と自分を比べて卑下しちゃうかもしれないけど、その平凡さがないと「特別」には至らない。みんなの心に響く普遍性につながりません。自分や周りにある「平凡」を覚えておくことが大事です。
いいものをどうやって作るかってよく質問されます。本をたくさん読んだり、昔の作品を覚えたりすることも大事かもしれません。
でも、一番大事なのはよく生きること。普通に生きることが、短歌にせよ、小説にせよ、作品を作る材料になるんだと思います。
今、皆さんの目の前にある景色は平凡でごく普通のものかもしれません。でも、それは2度と手に入らない愛おしいもの。
その渦中にいる瞬間は、つまらなくても、年を重ねればあの頃は良かったなって思うんです。平凡を、普通を恐れず生きてほしいと思います。
表現だったり、書いたりすることは、覚えておくことだと思います。
僕も創作する瞬間は、「あれってきれいだったな」「あの時楽しかったな」って思い出しています。
だから日常をじっくり見たり、味わったりしているんです。
特別なことがあった瞬間に言葉にできるわけはありません。だからパソコンの前に座って思い出している。
忘れてしまうものもありますよ。でも、ポエジーってそんなところに入り込む余地があるのかも。
高校生の皆さんの中には、「自分は凡人」だと打ちひしがれている人がいるかもしれません。でも、才能ってあんまりなくてもいい。
もし、目の前にグラスがあったら、そこの1、2割の部分に才能やセンスがあればいい。
その残りのスペースに技術とか経験とか入れていけば、あとは自ずとあふれ出ますよ。
もし、短歌が好きなら、好きな歌人2人をインストールしてほしい。1人だとただの真似になるから、2人分の要素をミックスするんです。
そこに「自分」を付け足せばオリジナルになる。短歌に限らず、クリエイティブなものはそういうところがあるかもしれません。
普通で自分に才能がないって思っていても、あるジャンルを好きになったら、そんな感じでやってみるといいのでは。
僕は歌人なので短歌をやってほしいけど(笑)。(談)
Future編集室が選ぶ 木下さんの「普通」を鮮やかに切り取った短歌
花束を抱えて乗ってきた人のためにみんなでつくる空間 ……※1
鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい ……※1
ダンボール一箱分を配り終え通行人に興味をなくす ……※2
はなびらはやさしい地雷 踏むたびに胸のあたりがわずかに痛い ……※3
ひっぱってくれるタイプの犬だったときおりぼくにふりむきながら ……※3
※1 『つむじ風、ここにあります』所収 ※2『オールアラウンドユー』所収 ※3『きみを嫌いな奴はクズだよ』所収
木下 龍也
歌人
きのした・たつや:1988年山口県生まれ。
歌集は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)『あなたのための短歌集』『オールアラウンドユー』(ともにナナロク社)。その他、短歌の入門書や共著歌集など著書多数。
※掲載内容とプロフィール情報は
Future vol.18(2024.7.8)時点のものです。