富山にこんなお仕事
学芸員(小松原 椿さん)
独り占めしたかった
フェルメールの名作「真珠の耳飾りの少女」が都内の美術館で展示された。中学生の時だった。
フェルメールの中でも最も有名なもの。美術ファンなら絶対にじっくり見たい。
しかし、同じ思いの人は多い。会場は人で溢れていた。そばで見られるのはほんの一瞬。あとは遠巻きに眺めるしかなかった。
「美術館の人になれば好きなだけ作品を独り占めできるのでは」。学芸員になる夢が誕生した瞬間だった。
やわらかい語り口で美術史を紹介し、メディアで引っ張りだこの山下裕二さんが教壇に立つ大学に入学した。
その山下さんのゼミで日本美術の歴史を学んだ。もっと知識を深めたいと大学院に進学し、写実的な日本の油絵を研究した。
修士課程修了を見据え、就職を意識するようになった。県水墨美術館がちょうど学芸員を募集していた。
自身の研究と美術館のコレクションは重なる部分がある。「ダメ元」で受験してみると合格。昨年4月から勤務している。
「富山って美術館が充実していて文化的な街ですね」と土地も気に入った。
早速、企画展も任された。恩師の山下さんが監修した「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」展だった。
山下さんの講演もあり、「大学のゼミの延長みたいだな」と不思議な縁を感じた。
10代の頃に夢想したように、開館前や閉館後には展示室で作品を「独り占め」できる立場になったが、「いざ学芸員になってみると、『無事に企画展が終わってほしい』って考えちゃって、純粋に作品を楽しめないですね」と笑う。
子どもたちへの教育普及の仕事に関心がある。「美術館に一生縁がないなんてもったいない。少しでも間口を広げたい」と考えている。
美術ファンをちょっとずつ増やす。その中には、自分のように学芸員を目指す子どももいるかもしれない。
私の愛用品
■名刺入れ
両親の友人に就職祝いで買ってもらった。
落ち着いた色合いが気に入っている。
初めて名刺を渡したのは新聞社の人だった。
※掲載内容はFuture 2024[進学・オシゴト版]
(2024.3.7時点のものです。)