世界に飛び出す
ハイダイバー荒田恭兵さん
9階建てビルに相当する高さ27メートルから水中に飛び込む「ハイダイビング」。
国内唯一のハイダイバーである荒田恭兵さん(高岡市出身)が昨年世界水泳選手権に日本勢として初めて出場した。
テレビ番組やSNSの発信もあり、注目度は急上昇。世界で活躍するアスリートの今を聞いた。
他の人と違っていたい
ハイダイビングって通常の高飛び込みとどう違うんですか。
高飛び込みは10mの高さから飛び込むんですよ。
でも、ハイダイビングだと、男子は高さ27m、女子は20mから飛ぶんです。27mってビルだと9階くらい。
踏み切りから入水まで3秒ほどで、技の完成度や難易度を競います。
海や崖でやるという大自然のロケーションと、人間の極限の技の融合が見ものです。日本でやっているのは今のところ、僕だけ。
初めて飛んだ時は手汗も喉の渇きもすごかった!やると達成感ありますよ。生きているって感じ。
ビルの9階とは。練習する場所ってあるんですか。
日本には高さ27mの飛び込み台なんてありません。だから、僕は福井県の東尋坊の崖でよく練習しています。
そこでも高さ15~20mくらいで競技の高さには及びません。
世界でちゃんとした競技用の飛び込み台があるのはアメリカ、オーストリア、中国の3カ所だけです。
スポーツはけがが付き物ですが、そもそもこんな激しい競技に挑戦したのはなぜ。
まず目立ちたがり屋なんですよ。他の人と同じことはあまりしたくない。
僕は小学生の頃から飛び込みの選手だったんですけど、それも珍しいでしょう?
大学4年の時には2人でやるシンクロ高飛び込みで日本選手権優勝もしています。
このまま就職しちゃうのも何か違うなって思っていた時に、ハイダイビングの存在を思い出したんです。
日本でやっている人はいなかったから「これは!」って思いました。就活は全くしていないです。
生活費はハイダイビング関連の賞金や広告案件で稼いでいるんですか。
実は全然。僕は県スポーツ協会の臨時雇用職員として働いています。生活費も遠征費もほとんどそこから捻出しています。
だから、派手に見えるかもしれませんが、経済的には苦しい。
ただ、水着やSNSで使う撮影機器、腕時計などはアンバサダーになっていただいた企業から提供いただいています。
あと、大阪のお寿司屋さんからは遠征の渡航費などをサポートしてもらっています。
大阪から!?それは富山の企業が協力しないわけにはいかないですね。
本当に。富山でも協力していただける方がいたらぜひ(笑)。
去年の世界水泳やテレビ番組の「クレイジージャーニー」に出たインパクトが大きかったですね。
全国のどこででも声を掛けられます。今後、こういう年があるんだろうか。多くの人に応援してもらいました。
世界水泳では結果は20位でしたが、この成績についてはどう受け止めていますか。
もっと上を狙いたいけど納得はしています。自分の技術の80%は出せたと思っていますから。
怪我をしなかったのも当たり前ですけどよかった。一つ一つの実践が今後につながります。
大変失礼な言い方ですが、荒田さんは成績以上に認知されているのがすごい。
20位くらいの選手の認知度は通常ないに等しい。
スポーツ選手で覚えてもらえるのは個人競技なら1位~3位までですよね。余程マニアな方は別にして。
でも、世界水泳の大会期間中は福岡のどこに行っても声を掛けていただき、気が抜けなかったです。
メディアの力の大きさを体感しました。
だからこそ、きちんとコントロールして正しい情報を発信する必要性もありますね。
単に危険なことをしているわけではなく、きちんと準備してリスクを最小限にしようと頑張っています。
あと、自然とも楽しく向き合っていることも伝えたい。今って、川遊びとか海遊びとか敬遠されがちでしょう?
でも、「怖い」だけでやめたら自然の素晴らしさを知る機会が減ってしまいます。
超マイナースポーツですよね。野球とかサッカーやっていればよかったって思いますか。
全く思わないです。他の人がやっていることなんて嫌。そこには惹かれません。
成功すればお金が得られたかもしれないけど、目指すところはそこじゃないですし。
僕が世界の舞台に立てたのもマイナースポーツでブルーオーシャンだったから。
普通の競技だったら、これだけメディアに取り上げられることはなかった人でしょう。
荒田さんのように誰も行かない荒野をいくべきですか。
やりたいこと見つからない人って多いでしょう?
ハイダビングをやれとは言わないけど、誰もやっていないことをやってみようと思う挑戦心はあってもいいのでは。
何が自分に合うか分からないんだし。最短距離で勝利したら、他の道の可能性を失っているとも言えます。
結局は人生を振り返った時にどう見えるかです。今の時点じゃ分からないことばかり。
荒田恭兵
ハイダイバー
あらた・きょうへい/1996年高岡市生まれ。ハイダイバー。日本のハイダイビング競技の唯一の競技者。高岡第一高校、日体大卒。2016年の日本選手権のシンクロ高飛込では2位に終わるも、翌17年にはにシンクロ高飛込で優勝を果たす。18年にハイダイビング転向。
※掲載内容とプロフィール情報はFuture 2024[進学・オシゴト版] 2024.3.7時点のものです。