無駄づくり発明家/藤原 麻里菜さん①
「『にゃーん』としか打てないキーボード」「土下座しながら移動できる車」「札束で頬を殴られるマシーン」ー。
効率ばかりを求められる世の中で、藤原麻里菜さんは「無駄づくり」と称して実生活には役に立ちそうもないものを作り続ける。
YouTubeで自作の発明品を紹介。チャンネル登録者数は10万人を越え、世界中にファンがいる。
「正解」だけを求める世の中に抗うように不必要とされそうなものを生み出す藤原さんが、無駄に込めた思いを教えてくれた。
無駄がアインシュタインを生んだ
そもそも無駄づくりとはどんな活動ですか。
根底にあるのは、エイブラハム・フレクスナーという科学者の言葉です。
引用すると〈「有用性」という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ。
好奇心と想像力から発見された「役に立たない」科学こそ、私たちの生活に「役に立つ」革新をもたらす〉。
かっこいいでしょう?
私たちはどうしても「将来のためになるかな」「誰かに褒めてもらえるかな」と考えて、自分の選択肢をふるいにかけてしまう。
でも、そうじゃない。好奇心のままに何かをやることが、結果としては価値につながるんです。
このフレクスナーは一見地味な基礎研究を大切にしていました。今の日本の偉い人は「それは何の役に立つの?
すぐにお金になるAIでも研究して」と言いそうですが、フレクスナーの精神があったからこそ、
アインシュタインのようなスター研究者が結果として輩出されたんです。
自己表現の大切さはとても理解できます。しかし、きれいな絵を描くでもなく、端正な陶芸でもなく、「無駄」なんですか。
私もきれいな絵やかっこいいアート作品を目指したこともあります。でも、なぜか変な方向に行ってしまう(笑)。
高校生の時にはそんなアイデアにはフタをしていたんです。バカにされちゃうから。
でも19歳から無駄づくりに全振りしたらしっくりきた。
それまで万人が認める物を作らないといけないと思っていたけど、無駄づくりと言ってしまえば変な物でもいい。
無駄というキーワードはどう思いつきましたか。
星野源さんがいたバンドの「サケロック」のファンだったんですよ。
そのウェブサイトに「無駄」というタグがあったんだけど、何回見ても更新されないんです。
それが印象的でした。
「ものづくり」というキーワードだと当たり前すぎて誰も見ないけど、無駄づくりなら面白い。
そんな何気ない理由です。無駄って排除されるものでしょう。
それを自ら生み出せば、世界を寛容にできる気がしました。
無駄づくりには専門的なプログラミングや工作技術が必要とされそうですが、どうやって学んだんですか。
美大や理系の大学に行ったと思われそうですが、高校卒業後は吉本の芸人養成所であるNSCに行きました。
私は面白い人になりたかった。芸人さんになるのが一番面白い人になれる近道だと安直に考えました(笑)。
無駄づくりに必要な知識はYouTubeやネットを使い、独学で調べました。
アイデアはどう考えますか。
散歩したり、Twitterしたり、映画見たり。目に映る全てのものがアイデアの種になる気がします。
観葉植物を見ているだけで、「これで何か作れないかな」って考えています。
あとは感情の揺れですね。
自分の感情の機微に敏感になって、モヤモヤしているのは何でだろうって考えることもあります。
そこから出発するものもあります。
藤原麻里菜
無駄づくり発明家
ふじわら・まりな/1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2018年、国外での初個展「無用發明展‐無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。「総務省異能vation破壊的な挑戦者部門2019年度」採択。ForbesJapan「世界を変える30歳未満の30人」2021年入選。