スペシャルインタビュー
角野隼斗さん②
Future vol.14に掲載
ショパンピアノ国際コンクールで演奏をスタートする際、すごくゆっくりと??盤に手を置いていますね。
あの間は何を考えているんですか。
最初の1音を出す瞬間が一番怖いんですよ。
演奏するピアノは事前にたくさん弾けるわけではないので、慣れていない。
緊張感の中で1音目を自分のイメージ通りに鳴らすためには、精神を酷使します。
ゆっくりに見えた動きは、自分を落ち着かせるためでもあるし、聴衆の耳を1音目に集中させるため。
色々な要素が組み合わさった結果ですね。
角野さんでも緊張するんですね。
当たり前じゃないですか(笑)。
僕の場合はYouTubeの影響もあり、良くも悪くも他の出場者よりも注目してもらえることが多くて。
それはもちろんありがたいことだとは分かってるんだけど、当時の僕にはものすごいプレッシャーでもあった。
人生で一番緊張しましたね。あれほど緊張することはもうないでしょうね。
笑顔を浮かべて、すごい楽しそうに見えました。
演出です。心は笑ってないですよ。というのは冗談ですが、
自分自身が楽しんで演奏するということを特に大切にしているので、努めて楽しもうとしていました。
笑顔を浮かべると、楽しんでいると自分が錯覚して、緊張がほぐれるという意味合いもあったかもしれません。
セミファイナリストという結果については。
めちゃくちゃ悔しかったですね。決勝まで行って、オーケストラと共演したかった。
でも、ショパンとひたすら向き合う時間は本当に貴重だったし、おかげでピアノの表現力もかなり上達した実感も持てた。
世界にアピールする良い機会にもなった。「出て良かったのは間違いありません」と今だから言えます。
クラシックに限らず、さまざまな音楽を奏でている。
「あれもこれも」というスタイルにはどんな理由がありますか。
新しいことをやりたいと思っているだけです。
歴史的に見ても、新しい音楽というものは往々にしてジャンルの衝突によって生まれます。
クラシックの世界も昔は新しい音楽がどんどん生まれていたけど、今では100年前、200年前の音楽を演奏するのが主流です。
もちろんそれを未来に残していくことはとても重要で意義のあることですが、
常に過去を向いていることにどこかしらの違和感を感じていました。
僕はジャズの世界やアカデミアの世界を体感した結果、やはり「自分にしかできないこと」に強い憧れを見出すようになりました。
クラシックで育ってきた自分が、21世紀に何ができるかを考え続けることが僕の生きる道だと感じています。
あとはやっぱり、僕をきっかけに深い音楽の楽しみや魅力に触れてほしい。
僕はクイズプレーヤーの伊沢拓司さんが率いるQuizKnockの「楽しいから始まる学び」というコンセプトにすごく共感します。
音楽も「楽しい」の先にすさまじい芸術のパワーがあるんです。それを伝えたい。
高校生にメッセージを。
できるだけ多くの世界を知ってほしい。自分が今見えている世界なんて実はちっぽけ。
自分の考えだって思っていることも親やコンテンツの影響を受けているだけだったりする。
だからこそ、できるだけ多くのものに触れてほしい。
でも、世界を知らないからこその無鉄砲さも素敵だと思います。
「俺にはこれしかない」と強く思えるものがあるなら突き進んでほしい。
音楽関係以外の仕事に就くとしたら、何をしていたと思いますか。
文系よりは理系の仕事なんだろうけど……。やっぱり音楽かな。
角野隼斗
ピアニスト・音楽家
すみの・はやと/1995年生まれ。2018年、東京大学大学院在学中にピティナピアノコンペティション特級グランプリ受賞。これをきっかけに、本格的に音楽活動を始める。20年3月、東京大学大学院情報理工学系研究科を卒業。卒業時に「東京大学総長大賞」を受賞。
現在は国内外でコンサート活動を行う傍ら、“Cateen(かてぃん)”名義で自ら作編曲および演奏した動画をYouTubeにて配信し、チャンネル登録者数は100万人を、総再生回数は1億回をそれぞれ突破(22年6月現在)。
※掲載内容とプロフィール情報は
Future vol.14(2022.7.11)時点のものです。