好きを仕事にする
高岡市出身の気鋭の彫刻家、村田勇気さんは時代と呼応しながら、
見る人の価値観を揺さぶる前衛的な表現を木彫に宿らせる。
受賞歴は豊富で、細密な作品はSNSでバズることも。
美術家を志した経緯や、お金に対する考え方を率直に語った。
Q.魅力を感じるアーティストは?
作品と生き方が連動している作家は面白い。
「どうしてそこまでこだわるの!?」と、驚かせてくれる人には迫力と説得力があります。
そういう人は仮に世に出なくても、ずっと作品を作り続けると思います。
私自身は、そういったこだわりの一貫性を欠いています。
その代わり、大事にするのはルール。
私の場合は基本的に木彫であること。俳句や短歌のような制約が作品の推進力になります。
字余りになってもいいのでルールを見つけてください。
美大の受験が終われば、うまいかどうかは重要ではありません。
現代美術はモノを作ってなんぼという世界ではありません。
Q.村田さんが美術家を志したのは。
高岡漆器の彫刻師だった母方の祖父の影響です。
輪郭線を一太刀で切るような腕のいい職人でした。
小学校1年生の時に彼は亡くなったのですが、彼のやってきたことや、
一緒に生きた時間を包み込むことができるのは美術という気がしたんです。
そのまま祖父の作業場を継いで受注仕事をやることもできたんでしょうが、
それではこぼれ落ちてしまうものがある。
時間や空間、個人史のような伏線を包括的に回収したかったんです。
それができるのが美術だと思いました。
Q.どんな高校生でしたか。
成績は悪かったです。高校入学時点で学力を使い果たしたんでしょうね。
普通は落ち込むんでしょうけど、美術をやっているキャラっていろんなことをスキップできるでしょう。
面倒くさい局面を「美術やっているから」で切り抜けられる。そういう設定に甘んじました。
まあ、でも勉強はもっとちゃんとしておけばよかったですね。
英語でも数学でも突然必要な場面はある。
頭が柔らかいうちにたたき込んだ方が得です。
Q.難関とされる東京芸術大の美術学部に進学しました。
この大学を志望した理由は。
祖父がやってきた仕事がどう位置付けられるのか、考えてみたかった。
東京芸大は前身の学校を含め、木彫科を設置した最古の教育機関です。
そんな場所ならレファレンスに不足はないだろうと考えました。
受験のために、東京の講習会にも行きました。
当然地方からの受講生である私よりうまい人はたくさんいました。
私が合格したのは、たまたまですね。当日のっていただけです。
Q.村田さんは作品のインスピレーションを何から得ますか。
インターネットです。
高校の時には巨大掲示板や動画投稿サイトなどにはまりましたが、今はTwitterでしょうか。
ネットは人の偏った意見や知識が集まります。
今の空気がリアルタイムで反映されます。実世界じゃないのもいい。
リアルでは普通に見える人が、ネットだとクッションをすっ飛ばして罵詈雑言を繰り出す。
人間の良い面も悪い面も見えてくるのが面白いです。
Q.彫刻家としてやっていけるという自信はどのように持ちましたか。
今も自信はないといえばないです。
ずっとズルズルやっています。彫刻家以外の仕事はずっと選択肢にないですね。
仮に何か他の仕事に就いたとしても、きっと戻ってしまうと思います。
Q.美術家はお金をどうやって稼ぐんですか。
私自身は生活レベルを低くして暮らしています。
作品を売るか。コンクールで受賞して賞金を得るか。
どちらにしても難しいことだと思います。
でも、売ってなんぼというものでもないでしょう。
売らないもの、売れないものも作っていい世界は豊かだと思いませんか。
お金に換えられないものってあるでしょう。人生そのものがそうだし。
一方で、生きるために作品を作って売ることの尊さも同時にあると思いますよ。
そうした両義性を含め、人が生きることを包み込めるのが美術だと思います。
ただし、作品に資産価値や換金性だけを期待しているような人とは友達にはなれませんね。
Q.高校生へのメッセージを。
美大を目指すなら、高校のOBでも、SNSの知り合いでも誰でも頼って必要な情報を得てほしいです。
私もいろいろなつてを頼って、受験に必要な細かい情報やノウハウを集めました。
今はSNSもあるし、私の時代よりは楽だと思います。大抵の大人は若者を喜んで助けたがっています。
あと、尊敬するアーティストがいたら、その人がどんな経緯を経て今のキャリアを形成したか調べるのもいいでしょう。
これは美術に限りません。研究者でも、スポーツ選手でも一緒です。
全く同じようには生きられなくても、参考になることはあるはず。
村田 勇気
彫刻家
むらた・ゆうき/1991年高岡市生まれ。
高岡高校卒業、東京芸術大大学院美術研究科彫刻専攻修了。
同年、アートアワードトーキョー丸の内グランプリ、秀桜基金留学賞、東京芸術大学杜の会賞、15年アートフェア富山グランプリなど受賞。2020年から21年にかけ、4章仕立ての個展を県内で開いた。
※掲載内容とプロフィール情報はFuture 2022[進学・オシゴト版] 2022.2.25時点のものです。